1.窒素の循環

 
(1)生物による窒素の取込
タンパク質や核酸などの有機窒素化合物に含まれる窒素は植物が土壌中(水域の低質を含む)から吸収した無機窒素化合物に由来する。植物(生産者)は、根を通して土壌中の硝酸イオン(NO3–)やアンモニウムイオン(NH4+)を吸収し、それを基にタンパク質や核酸などをつくる。生物が外界から無機窒素化合物を取り込み、自身のからだに必要な有機化合物をつくり変えるはたらきを窒素同化という。


(2)生物界での窒素循環
炭素の循環と同様に、植物が動物(消費者)に食べられると、窒素化合物は動物に移る。また、動植物の排泄物・枯死体の窒素化合物は、土壌中の菌類と細菌(分解者)に移り、アンモニウムイオンへと分解され、さらに硝化菌(亜硝酸菌・硝酸菌)によって硝酸イオンに変えられる。その後、再び植物に利用される。


(3)生物による空中窒素の固定
大気中には約80%もの窒素が含まれているが、窒素分子(N2)は安定な物質なので、多くの生物は直接これを利用できない。土壌菌中のアゾトノバクターやクロストリジム、マメ科植物の根に共生する根粒菌、ある種のシアノバクテリアなどは、空気中の窒素をアンモニアに変換する。これを窒素固定という。


(4)生物による脱窒素
水中や土壌中には、亜硝酸・硝酸イオンを窒素分子に変えて大気中に放出する脱窒素細菌(脱窒菌)が存在し、この反応を脱窒という。


(5)工業的窒素固定
大気中の窒素と水素を化合し、アンモニアを工業的に生産(工業固定)し、肥料・合成繊維などの原料としている。特に、化学肥料を使用して食料・飼料を生産しているため、生物界を循環する窒素の総量が大幅に増加している。

図1 窒素の循環.jpg

図1 窒素の循環

注意:生物による窒素循環については、多様な細菌・アーキア・動植物が複雑に関与している。窒素に係る環境要因と各生物の遺伝子・酵素・代謝などを含めた詳しい説明は、別ページに記載する。
 

2.窒素の化学と除去


(1)アンモニアの工業生産
 窒素と水素を原料として、400~500℃、200~350気圧において四酸化鉄Fe3O4を主成分とする触媒を用いて合成する(ハーバー・ボッシュ法)。このアンモニアは主に肥料・化学繊維(ナイロン)の原料や排煙脱硝などに用いられる。

  N2 + 3H2 → NH3

(2)工業的な窒素除去

気体状窒素化合物
石炭利用の火力発電所などから排出される窒素酸化物(NOx)や内燃機関での酸素と窒素の結合による生成するNOxの除去には、アンモニア・尿素・シアン化水素などの窒素化合物や炭化水素・水素などの化合物を用いてNOxを窒素ガスへ変換する方法が用いられる。高温・高圧下で反応が進行するが、触媒を用いて反応条件を緩和する。
火力発電所に広く用いられている排煙脱硝法では、排ガス中にアンモニアを注入し、二酸化チタンを主成分としバナジウム、タングステンなどが添加された触媒上でNOxを選択的に反応させて窒素と水に変換する。
4NO + 4NH3 + O2 → 4N2 + 6H2O

液体中窒素化合物
硝酸・亜硝酸イオンとアンモニウムイオンを等モル含む水溶液を超臨界・亜臨界の高温・高圧の状態にすると不均化反応により分子状窒素と水分子が生成する。遷移金属(特に、筆者らの実験ではモリブデン・ロジウムの効果が高い)を触媒として用いると、300℃以下の温度でも95%以上の脱硝効果が得られる。この方法は、装置が複雑で高価であるので、極めて高濃度の窒素廃液処理(数千~数万mgN/L)に限定される。

 

3.微生物によるアンモニア酸化(硝化)


アンモニアの硝酸イオンへの微生物による酸化は2段階で行われる。酸素存在下で、ニトロソモナス属・ニトロソコッカス属など(亜硝酸菌)によって亜硝酸イオンに変換される。亜硝酸イオンは、ニトロソバクター属など(硝酸菌)によって硝酸イオンに変換される。
これらの反応(上記双方の細菌群を硝化菌)によって、酸素ががモル比(O/N)で3.5倍量、重量比で4.57倍量消費される。また、水素イオンがモル比(H/N)で2倍量生成するので、水酸化ナトリウム(NaOH)換算で5.72gのアルカリが必要となる。それぞれの硝酸菌の最大増殖速度のpH(亜硝酸菌、pH6.5付近;硝酸菌、pH8.5付近)が異なりpH設定値によって律速段階が異なるので、これらの反応の制御は可能であるが、簡単ではない。

  (1) NH4+ + 3/2O2 → NO2– + 2H+ + H2O   (2) NO2– + 1/2O2 → NO3–

水温
硝化細菌は10~35℃で生育可能であるが、適温は20~30℃で、15℃では25℃の1/2に反応速度が低下する。窒素除去型浄化槽では、水温13℃以上で適正に硝化・脱窒素反応が進行するように、装置の構造基準が定められている。

pH
硝化菌の最適pHは6.5~8.5である。pHが低下すると硝化反応が進行しないので、アルカリ度が不足する汚水処理では、アルカリ添加によるpH制御が必要となる。

有機物濃度
有機物がBOD換算でおよそ30mg/L以上存在すると、硝化反応は進行しないので、曝気時間を十分とって有機物を低濃度に維持することが必要である。

DO
数mg/Lに設定する。特にその数値に拘る必要はない。1mg/L以下では、DO計の検定が不適切である場合やDO測定への妨害物質(酸素センサーの隔膜を通過する分子状電子供与体)が共存する場合には、DOが本当に酸素供給量が適正状態であるかどうか判定ができない。

汚泥令
一般的な有機物酸化菌の増殖速度は3.0~13.2/日に対して、硝化菌は0.34~13.2/日と一桁低い値である。汚泥令(SRT、汚泥滞留日数)は6~10日が最適といわれるが、7日以上確保する。
なお、生物学的窒素除去法では、システムを開始して、正常に稼働するまでに数週間が必要となる。まず、有機物酸化菌が増殖し有機性窒素が分解されてアンモニアが生成し、次にアンモニアを亜硝酸イオン、硝酸イオンへそれぞれ酸化する細菌が逐次増殖して、それぞれの機能が発揮されるからである。参考までに、魚の飼育水槽(水温15℃)を浸漬ろ床法で浄化するシステム(閉鎖系)でのアンモニア・亜硝酸・硝酸性窒素の濃度変化を別ページに示しているので、参考にされたい。

 

4.微生物による脱窒素(脱窒)


(1)脱窒反応

脱窒菌
脱窒菌は、土壌中や水域の底泥表層中に広く存在する。有機物(水素源)を必要とする従属栄養性の通性嫌気性菌であり、酸素が存在する場合にはこれを利用して呼吸するが、無酸素状態では硝酸・亜硝酸イオンなどの結合酸素を呼吸反応に利用する。脱窒反応は硝酸呼吸とも呼ばれる。

  (1) NO2– + 3H(有機物)→ 1/2N2 + H2O + OH–  (2) NO3– + 5H(有機物)→ 1/2N2 + 2H2O + OH–

有機物量
脱窒反応には、BOD必要量は、亜硝酸イオンで窒素に対して1.7倍量、硝酸イオンで2.9倍量が消費される。メタノール必要量は、亜硝酸イオンで窒素に対して1.1倍量、硝酸イオンで1.9倍量が消費される。
メタノール添加では、汚水中窒素に対して、余裕を見て1.5倍量、2.5倍量をそれぞれ添加するとよい。なお、メタノール添加・脱窒工程の後、放流する場合には、沈殿槽の前に残存するメタノールを除去するための再曝気槽の設置が必要となる。

(2)脱窒速度の影響因子

水温
脱窒菌の活性に与える水温の影響は、通常の有機物分解菌と同等であり、一般的な脱窒速度は、20℃において、水素供与体として有機物を使用した場合0.1kg-N/kg-VSS/日程度、メタノールを使用した場合0.2kg-N/kg-VSS/日程度の値を適用する。

pH
脱窒反応の最適pHは7~8であり、中性であればよい。
脱窒反応ではOH–が生成するので、pHが上昇する。硝酸・亜硝酸イオン濃度が高い汚水を処理する場合には、塩酸・硫酸等によりpH調整が必要となる。

汚泥発生量
硝化工程では流入窒素の約5%が菌体となる。脱窒工程では、メタノールの添加量を2.5倍量とすると、その約20%が菌体となる。したがって、汚水中の窒素の50%の汚泥が発生することとなる。

リンの必要量
菌体中のリン含有量は1~2%であるので、窒素量に対し0.5~1%のリンが必要となる。生活系排水ではリンの添加は不要であるが、工場排水ではリンが存在しないことが多く、適宜、リンを添加することが必要となる。

 

5.生物学的窒素除去 – 硝化脱窒法


生物学的脱窒においては、硝化反応と脱窒反応を合理的に行わせ、先に述べた硝化菌・脱窒菌の生理特性を考慮した上で処理プロセスを構成する。
硝化菌・脱窒菌を汚水処理に適用する基本的な要素は、①微生物群の保持方法、②好気槽・無酸素槽などの槽配列とその流動形態である。微生物の保持形態(培養法)としては浮遊型(活性汚泥法)か付着型(生物膜法)か、反応槽の形状・規模、汚水滞留時間・流動形式などである。一般的に小・中型処理装置には生物膜法、大型処理装置では活性汚泥法がそれぞれ用いられる。各反応槽の配置・流動形式で分類すると、間欠曝気型と連続曝気型に区分できる。
生物型窒素除去法は有機物酸化・硝化・脱窒を行わせるための反応槽と沈殿池の組合せによっていくつかの方式に分けられる。硝化槽ではアルカリ度が減少し、脱窒槽では増加するとともに有機物が必要である。曝気槽で有機物の酸化分解と硝化を同時に進め、その後で脱窒反応を行う方法(図2(A)や図3(D))では有機物やアルカリ度の活用からみて効果的ではない。無酸素槽を前置して、硝化液を循環する方式が多用される(図2(B))。この方式には、脱窒工程を硝化工程の前後に配置させる方式または脱窒槽・硝化槽の順に組合せ硝化液を循環させる方式がある。水素源として流入水中の有機物を、また硝化のためのアルカリ分を脱窒液に求める方式が多い。生活排水などへは、汚水中の有機成分を有効に利用することができ、しかも硝化脱窒時のpH変動を低く抑えることができる硝化液循環型の処理プロセス(図2(B))が広く用いられている。
以上述べた生物学的窒素除去法は有機物酸化・硝化・脱窒をおこなわせるための反応槽と沈殿池の組合せによって図2及び図3に示すように分けられる。

(1)一相汚泥方式
単一の活性汚泥中に有機物酸化菌・硝化菌・脱窒菌を共存培養する方式で複数の反応槽(活性汚泥でも生物膜でもより)と1つの沈殿池を最終的に設ける。プロセスの構成は簡単になるが、それぞれの細菌群の間で拮抗作用が起こる可能性がある。1槽を曝気槽とし、他の1槽を無酸素状態(微生物と汚水を接触させる攪拌が必要)で汚泥を保持して各微生物群を活用する方式である。最も所有面積が少なくてすむが、汚泥管理を十分にする必要がある。
図2(A)は、第1槽で有機物・アンモニアを同時に参加して、残存する亜硝酸・硝酸イオンを攪拌(無酸素)槽で水素供与体(有機物)を添加して窒素ガスに変換する方式である。なお、水素供与体を添加する方式では、脱窒素(無酸素)槽の後段に再曝気槽を設置するが、図中では省略してある。これは脱窒槽で供給された水素供与体(メタノールなど)の残存分の除去を目的とする。以下、同様である。
同(B)は、第2槽(曝気槽)の亜硝酸・硝酸イオン含む硝化液を第1槽(無酸素槽)へ循環して、流入水の有機物を水素源として脱窒反応を行う。生活排水系では、循環量は流入水の3~4倍が最適といわれている。この方式では、汚水中の有機成分を有効に利用することができ、しかも硝化脱窒時のpH変動を低く抑えることができる。流入汚水中の有機物(BOD)/Nの割合がおよそ3倍以上であれば、水素供与体の添加は不要である。
同(C)(間欠ばっ気法)は、上記(B)(連続曝気法)の変法で、曝気(有機物酸化・硝化)および攪拌(無酸素)を一定間隔で繰り返して、硝化・脱窒反応を交互に行うシステムである。
攪拌には機械攪拌、ポンプ攪拌、ガス攪拌などがあるが、ガス攪拌の場合には曝気装置の兼用が可能である。

 

図2 一相汚泥式硝化脱窒プロセス.jpg

図2 一相汚泥式硝化脱窒プロセス

写真1 一相汚泥・硝化液循環型窒素除去法の室内実験装置
装置(撹拌槽-3L、曝気槽-10L、沈殿槽-3L)、医・農薬製造排水-10L/日


(2)二相汚泥方式
図3(D)のシステムは、酸化と硝化を同一の反応相で行い、脱窒を別の反応槽で行う方式である。反応槽と沈殿槽はそれぞれ2つ必要となる。二相汚泥システムでは有機物酸化と硝化を第1槽で完了させ、脱窒を第2槽で実施する。曝気槽でのアルカリ添加と水素供与体としてメタノールなどの添加が必要となる。

(3)三相汚泥方式
有機物の酸化・硝化・脱窒をすべて別々の微生物群汚泥を保持する反応槽を使って行う方式である。三相汚泥システムは、第1槽でBOD成分を代謝分解し、第2槽でアンモニウムイオンを硝化し、第3槽で無酸素状態で有機物を添加して亜硝酸・硝酸イオンを窒素ガスに変換する方式である。第2槽では硝化反応によりアルカリ度が消費され、pHが低下するため、そのアルカリ剤を添加してpH調整を行う。第3槽では所定量の有機物を添加する。本システムでは各微生物群を個別に培養するので、それぞれの微生物群の至適条件で維持管理できるので安定した処理が期待できる。しかし、汚泥の培養数に事例して沈殿槽が多くなる上にアルカリや有機物の添加が必要となり、建設費や維持管理費が高くなる。
汚水中に硝化菌あるいは脱窒菌に阻害効果のある物質が含まれている場合には、BOD酸化を主体とする活性汚泥プロセスを独立さて阻害物質を分解し、後段で二相汚泥または三相汚泥方式で窒素除去を行う。

 

図3 二相汚泥式(D)・三相汚泥式(E)の硝化脱窒プロセス.jpg

図3 二相汚泥式(D)・三相汚泥式(E)の硝化脱窒プロセス

6.生物学的窒素除去 – アナモックス法


6.1 アナモックス反応

(1) AMX反応とは
アナモックスとは嫌気性アンモニア酸化(anaerobic ammmonium oxidation、以下、AMXで略記する)の略称である。AMX反応は、図4(4)に示すように、NO2–を電子受容体とし、NH4+を嫌気的に酸化してN2へ変換する反応であり、オランダの下水処理場で初めて見出され1995年に報告された。NH4+をNO3–へ酸化した後、有機物を電子受容体としてNO3–をN2へ変換する硝化脱窒法と比べて、AMX法は使用電力および余剰汚泥の低減が可能となる技術である。
なお、微生物によるNH4+とNO2–との反応によるN2への変換については、1977年に予測されていた。また、NH4+を還元してN2へ変換する細菌・アーキアは、海洋・湖沼・土壌中などに幅広く存在し、好気的条件下でも前記反応を行う細菌の存在も確認されている(ただし、酸素を遮断する仕組みがあり、菌体内での反応は嫌気反応である。)。詳しくは、別ページで解説する。

 

図4 アンモニアの生物学的酸化還元反応とそれらの酸化還元菌.jpg

図4 アンモニアの生物学的酸化還元反応とそれらの酸化還元菌


(2) AMX菌の増殖と制御
AMX反応は、一般的に次式で示され、1モルのアンモニアと1.3モルの亜硝酸を消費し、1 モルの窒素ガスと約0.3 モルの硝酸を生産する。

NH4+ + 1.32NO2– + 0.066HCO3– + 0.13H+ → 1.02N2 + 0.26NO3– + 0.066CH2O0.5N0.15 + 2.03H2O

図4に示す各反応(i = 1 to 4)の速度定数をki [kg-N/kg-VSSi/h]で示すと、目的とする反応(i)を推進するすためには、ki ≫ kj (j ≠ i)になるように条件設定をすることとなる。ところが、図4に示す各細菌の比増殖速度μiは、それぞれの最適条件での値を比較しても、μ4<μ2<μ1<μ3<μorg(有機物酸化菌)である。
そこで、バイオリアクター内にAMX菌を保持するためには、次に示す方法などが必要となる。(a) 共存する阻害基質(有機物やNO3–など)を前もって除去し、酸素の存在下で、NH4+を半分量NO2–へ酸化する。(b) AMX菌のSRTを十分に長く保持するリアクターを工夫する。他の細菌類が共存する系では、(c) AMX菌をリアクター内に保持して系外へ流出しない方法か、あるいは (d) AMX菌のみを分離してリアクターへ返送する。
プロセス(a):有機物を除去した後、NO3–が生成しない条件で、NH4+の半分量を少し上回る程度に酸化してNO2–を生成させる(部分酸化)。
プロセス(b):AMX菌グラニュール法またはAMX菌を固定保持する担体法を用いる。
プロセス(c):好気・嫌気の両条件を満たし、AMX菌および他菌類を共存固定する担体へ保持する。
プロセス(d):他細菌とAMX菌との異なる性状を利用して汚泥を分離する。
AMX菌を利用した窒素除去法には、上記のいずれかのプロセスを組み合わせた工程が実用化されている。

(3) AMX菌への影響因子
a) pHと温度
pH7~8.5、水温は30~37℃が最適であるとされる。脱窒の条件は、pH 6.9~7.9、水温は30~40℃であるので、最適条件は非常に似かよっている。低温域(12~15℃)で最大のAMX菌もいるが、処理速度の視点から、特殊な廃水処理に限られる。
b) NO2–、NH4+の阻害
NO2–は比較的低い濃度から阻害を示し、100mg/Lから阻害を示すと言われる。NH4+は、1,000mg/L前後以上で阻害を示すと言われる。遊離のNH3は数10~200mg/Lで阻害を示すとの報告がある。NH4+ ⇄ NH3 + H+ には平衡関係があり、pHの増加とともに、右方向へ平衡が移動するので、注意を要する。
c) 有機物の影響
有機物の影響は、その物質により大きく異なる。メタノールは数mg/Lのレベルで否可逆的な阻害を受ける。一方で、AMX菌は多様な代謝を示し、酢酸などを利用し、グルコース・ギ酸などには影響を受けない。しかしながら、有機物の存在は他の細菌類の増殖を促進するので、増殖率の遅いAMX菌の占有率が低下し汚泥管理による流出が問題となる。
d) 他の阻害因子
硫化物やリン酸は、それぞれ1や20mmol/Lレベルで阻害するとの報告がある。カチオン系ポリマーは1,000mg/Lレベルで阻害があるとされる。

6.2 AMX菌叢および生理特性

AMX菌は、その濃度が高くなると赤く見える。これは、鉄タンパク質であるヒドラジン酸化酵素のためと考えられる。AMX菌は、海洋・河川・湖沼の底泥や汚水処理汚泥など、自然界の様々な場所で広くその存在が示されている。
AMXの純粋培養株は得られていないものの、分類上はBacteriaのPlanctomycetes門、Planctomycetia網、Candidatus Brocadiles目、Ca. Brocadiaceae科に属し、現在、Ca. Brocadia、Ca. Kuenenia、Ca. Jettenia、Ca. Anammoxoglobus、Ca. Scalindua、Ca. Anammoximicrobiumの6つの属提案されている。Ca.は、培養に成功していない生物につけられるCandidatusの略省である。
汚水処理で検出される多くは、Ca. BrocadiaとCa. Kueneniaである。詳しいAMX菌叢および生理学的特性については、Web等から検索・参考にされたい(例えば:https://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/water/research_Annammox.html)。

 

写真2 担体に固定されたAMX菌.jpg

写真2 担体に固定されたAMX菌 Photo.2 AMX bacteria immobilized on a carrier
引用:和木 美代子::産環境情報, No.56, p.5(2015)


(2)AMX窒素除去プロセス
AMXを利用した窒素除去の実規模施設は、世界中で100件を越える施設が稼働しているようである。国内でも、各社から実用化プロセスが提案されている。大きく分けて、2槽、1槽およびSADの3方式がある。

 

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表1 AMX窒素除去プロセスの方式


6.3 AMXリアクター

生育の遅いAMX菌を反応槽へ保持するため、(1)グラニュール法または(2)担体固定化法が利用されている。

(1) 担体固定化法
担体としては、布・紐・スポンジ板などの固定型と流動型がある。要点は、担体と廃液との効果的な接触および窒素ガスの排出である。また、高濃度のNO2–は阻害因子であるので、反応槽内の流動方向に濃度差が生じないように廃液を循環している。また、固定型では、振動などにより、担体内表面に生成した微細なN2ガスを効率的に排出する工夫がなされている。

(2) グラニュール法
この方法は嫌気性生物処理に利用されているUASB法と同じような原理で、UASB法ではメタンガスを回収する固液気分離装置を有しているが、本法では同装置は不要である。グラニュールの育成に数十日を有するので、稼働している施設から、グラニュールを移植して立上げを速くする。
また、(1)示す流動担体型も同様な装置が利用される。

 

写真3 AMX菌固定型リアクター.jpg

写真3 AMX菌固定型リアクター
引用 Quote: https://www.life.sojo-u.ac.jp/environ/research.html

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写真4 AMXグラニュール
引用 Quote: https://www.semanticscholar.org/paper/The-SHARON-anammox-process-for-the-treatment-of-by-Sousa/
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6.4 アナモックス実施例

(1) 天然ガスかん水の部分亜硝酸化-アナモックス処理
関東天然瓦斯開発(株)
日本では、地下500~2,000mから高塩分の地下水を汲み上げ、天然ガスおよびヨウ素(世界生産量の34%)を回収している。資源回収排水には100~200mg/LのNH4+が含まれており、この処理に1槽型PN-AMX法を適用した技術開発を行っている。

 

図5 PN-AMXリアクターの概略図.jpg

図5 PN-AMXリアクターの概略図
引用:横田 信之:東京農工大学・博士学位論文(2019), p.54


(2) 固定床型アナモックスプロセスによる返流水の窒素除去
(株)タクマ・熊本市上下水道局・日本下水道事業団

下水処理場での総返流水(汚泥濃縮脱離液および消化槽汚泥脱水ろ液)には、高濃度のNH4+(当実験処理場:600~700mg/L)が含まれている。この対策として、前処理-部分亜硝酸化-AMXの各工程から構成される実証プロセスの結果(90%以上の窒素除去など)を示すとともに、考察(菌叢解析など)を行っている。

 

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図6 アナモックスプロセスの処理フロー
引用 Quote:TAKUMA HP (https://www.takuma.co.jp/product/water/kodo/anammox.html)


(3) 下水の高度処理におけるアナモックス処理
(株)明電舎・神戸市建設局

電力削減および温暖化を図るため、AMXを適用した新たな下水処理施設の技術開発を実施した。本技術の特徴は、低NH4+濃度・低水温の下水にも対応できる本流処理槽と汚泥消化槽を含む各工程へAMXを導入した現場での実証実験である。

 

図7 アナモックス細菌を用いた高濃度窒素処理.jpg

図7 アナモックス細菌を用いた高濃度窒素処理
引用 Quote:明電舎 MEIDEN HP (https://www.meidensha.co.jp/news/news_03/news_03_01/1223555_2469.html)


6.5 アナモックス反応の実用化と科学的意義

AMX反応が発見され、その普及が期待されたが、国内では硝化脱窒法に比較すると実用化例は少ない。この理由は、新しいプロセスを立ち上げるための種汚泥を確保することが困難であった。今日、稼働プラントも増えつつあり、種汚泥の問題は解決しつつある。AMX菌の増殖速度が極めて遅く、菌体の保持・管理に高度な技術が求められ、高齢化と管理要員の不足もその理由の一つであろう。
C/N比が適切で高濃度廃水では、酸素の供給量・濃度を精密に制御できる活性汚泥法により有機物と窒素の同時除去が可能である。C/N比が低い廃水の窒素除去には、硝化・脱窒法あるいはAMX法が必要である。
AMX反応は、他の独立栄養細菌と同じく、特別な生物反応ではない。しかし、AMX菌は未だ純粋培養がなされていない。AMX菌の学術研究は自然界での窒素循環の複雑な生物学的経路を理解する上で、極めて重要な意義を有する。生活・産業廃水からの窒素除去の低コスト・汚泥化のみならず、農業における合理的な窒素管理と増産、自然現象や農業による温室効果ガスN2Oの発生削減など、今後のAMX菌に係る科学技術の進展が期待される。

DOの意味とその制御
好気性微生物を利用する生物反応槽においては、DOは極めて重要な操作因子である。ここでは、DOの意味とその制御について、詳しく説明する。

反応槽でのDOの挙動
DOの話の前に、収入と預金量の話をする。収入が多いから、預金量が多いとは限らない。振込量と引出量の差が預金量となる。
ここで好気性生物反応槽では、振込量が酸素供給量、引出量が酸素消費量、預金量がDO(正確には、DO[mg/L=g/m3]×反応器容積V[m3])ということになる。
酸素供給量>酸素消費量の場合にはDOは平衡状態まで上昇するし、酸素供給量<酸素消費量の場合にはDO = 0となる。
酸素消費量は、生物量(正確には、生物による有機物の最大分解速度)>有機物量(正確には、有機物の負荷量)の場合には有機物流入量が律速になり、生物量<有機物量の場合には生物の呼吸量が律速となる。
なお、酸素供給が曝気により行われる場合には、その供給量は気液界面での酸素の移動速度(溶解速度)によるが、これは気液界面の総面積(曝気の送風量と気泡径などに依存)、酸素分圧、飽和DOと溶存DOとの差など多くの因子の関することとなるので、別のページで記載することとし、ここでは触れないこととする。

DOの制御
呼吸器(肺や鰓など)・血液などの酸素取込・運搬系および呼吸を行う体細胞から構成される水生動物と水浄化の微生物の主役である単細胞菌(懸濁培養系では微生物フロック、または担体付着系では生物膜)においては、最適な水中DO値が全く異なるので注意する。水生動物では鰓で酸素交換を行うので外部DO値が重要となるが、単細胞では酸素が細胞膜を通過して細胞内へ直接取り込まれる(濃度差による分子拡散)。
したがって、生物反応でのDOは上述したように、酸素供給量と酸素消費量のバランス(過不足)の指標と考えるべきで、DO値そのものに特に拘る必要はない。好機生微生物の反応槽では、数mg/Lに設定する。1mg/L以下では、DO計の校正や維持管理(センサへのスラムの付着など)が不適切であル場合やDO測定への妨害物質(酸素センサーの隔膜を通過する分子状電子供与体)が共存する場合には、DOが本当に酸素供給量が不足状態であるかどうか判定ができない。
一般的に反応槽の好気性微生物で重要なことは、その槽内におけるDO値の位置分布が重要となる。反応槽の容積が大きくなるほど、有機物(反応中間体を含む)濃度の位置分布が異なり、DO値分布も異なる。反応槽内の汚水流動状態から見ると反応槽も混合型から層状流型まで様々である。流入部、中央部、流出部でのDO値は異なり、流出部でのDO値がゼロ近傍では酸化分解が不完全であることを示している。

参考文献
 1) 河村 清史(監修)、2013:浄化槽工学、pp.85-89、日本環境整備教育センター
 2) 楠井 隆・松原 数喜、2007:廃水処理施設における硝化細菌と硝化能力の関連、富山県立大学紀要、Vol.27、pp.93-97
 3) 鈴木 孝仁・他、2014:新生物-生物基礎・生物、数研出版、p.428
 4) 野村 祐次郎・他、2016:新化学-化学基礎、数研出版、p.340
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 6) 吉村 二三隆・北川 幹夫、2011:わかりやすい水処理設計、技術評論社、pp.83-89

 

写真1 一相汚泥・硝化液循環型窒素除去法の室内実験装置.jpg